JAPAN ORIGIN…
自転車をドレスアップ(カスタマイズ)したいと考えたときに、市場を見まわしてみるとアクセサリーパーツの“素材”の選択の幅は驚くほどに狭い。つまりは新素材か、革か… アルミやカーボン製の最新ロードバイクなら、徹底的にスペックを追求した新素材でもよかろう。だけど、(僕のように)シンプルな鉄の細くて真っ直ぐなフレームで組まれた自転車が好み… なんて人間が、より深い味わいを求めてドレスアップをしたいとなると、選択するアクセサリーの素材は“革”ってことになる。味わいはイタリアやフランスやイギリスの、つまりは自転車の本場の革に求めるほかない…
豊かさとは選択の幅の広さなり、と説いたのは司馬遼太郎だけれども、その説に寄りかかるならば、この国の自転車文化は、まだまだ貧しいということになる(シマノをはじめとする日本のハードウェアは、すでに世界の自転車市場を席巻しているにもかかわらず…)。 本当に、素材の選択の幅は狭いのだろうか?この国の人々は、古来からさまざまな素材を生活のなかに上手く活かしながら暮らしてきたはずである。選択の幅が狭くなったのではなくて、選択の幅を自分たちで狭くしてしまっているだけなのではないか。
「日本の伝統工芸」なんて言葉にしてしまうと歴史だ文化だと、なにやら現世とは違う世界の話のような気がするけれども、歴史は今に、そして未来へとつながっているものだし、文化は普段の暮らしのなかにこそ息づくものだ。この国には、この国が育んできたさまざまな「素材」や「技法」がある。その宝ものをさらに輝かせるには、僕らが日常の生活のなかでそれらを使いこんでいくことだと思う。
たとえば、真田幸村が刀の柄に巻いたことからその名がついたと言われる「真田紐」を、自転車の新たなアクセサリーパーツとして使ってみる。木綿で織り上げられた織り紐は丈夫で伸びず、肌触りは優しく滑らず、そして独特の織り柄が美しい。ハンドルに巻けば、それだけでイタリアにもフランスにもイギリスにもない、日本ならではの美しく、かつ実用的な自転車ができあがる。それは、Japan Originの自転車文化である。
YUMENO CYCLESでは、丁寧に織り上げられた上質な真田紐を、だれにも簡単に巻けて使いやすい「テープ」(=SAMURAIテープ)に加工することで、暮らしを彩る「素材」としてさまざまな用途を提案していきたい。自転車はその第一弾にすぎず、もちろんクルマにもバイクにも使えるし、お手持ちのバッグの持ち手に巻いてもいい。ほかにも、もっともっと自由で楽しい「選択の幅」が広がるだろう。 日本の伝統工芸の技や美の価値は、自分たちの生活のなかで使われて、暮らしをより豊かにしてはじめて光を放つものだと思う。